数学B / 統計的な推測

なぜ n-1 で割るのか(不偏分散)

最難関編標本平均期待値不偏推定

問題

母平均 、母分散 の母集団から、大きさ の無作為標本 を取り出す( は互いに独立で、それぞれ母集団と同じ分布に従う)。標本平均を とする。

(1) を示せ。

(2) とするとき、 を示せ。

(3) 母分散の推定に を使うと平均的にどうなるか。 を使う理由を述べよ。

ヒントを見る

偏差 を、真の平均 を間にはさんで2つに分けてみよ。

からどれくらいずれるか。それは何と呼ばれる量か。

解答・解説

方針

真の中心 を経由するのが鍵。 と書いて2乗して足すと、 のずれのぶんが分離される。あとは を使う。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 標本から母分散を推定したい。素直に考えれば、標本の散らばり を使えばよさそうだ。ところが教科書は で割れという。なぜなのか。

原因は にある。真の平均 は分からないので、代わりにデータ自身から作った を中心に使う。ところが はデータに引っ張られる。だからデータは、真の中心 のまわりよりも のまわりに寄って見えるのだ。

その「寄り」のぶんを計算すると、ちょうど 1つぶんになる。だから ではなく で割ると、帳尻が合う。

計算の要は、 と書くことである。真の中心 を経由して、 のずれを分離するのだ。

公式期待値の線形性 。独立なら分散も足せる:

① (1) 標本平均の期待値と分散。 期待値は線形性から

分散は、 が互いに独立だから加法性が使えて

定数倍の分散は2乗で効く()ことに注意。標本平均は、 個のデータより 倍だけばらつきが小さい。

② (2) 真の中心を経由する。 と書いて2乗し、 について足す。

ここで だから、真ん中の項は になる。よって

③ 期待値をとる。 個ぶん。また である( の平均は だから、これは分散そのもの)。したがって

引かれた が「 を使ったぶんの目減り」である。

④ (3) 割る数を決める。 ②③より

つまり は、平均的に見て母分散を小さく見積もってしまう(過小評価)。 なら ほどにしかならない。

一方

で、期待値がちょうど母分散に一致する。これが「 で割る」理由である(この量を不偏分散という)。

まとめ: はデータ自身から作った中心だから、データはその近くに寄って見える。寄りのぶんはちょうど 1つぶんで、それを補うのが という割り数である。

発展 — 一歩先へ。 なぜ目減りがぴったり 個ぶんなのか。偏差 には という束縛が1本かかっているからだ。 個の偏差のうち、自由に決められるのは 個で、最後の1個は自動的に決まってしまう。この「自由度 」が、そのまま割る数になっている。

自由度はもっと先の統計学でも主役であり続ける。母平均も母分散も未知の状況で使う 分布、分散の分布を扱うカイ2乗分布は、いずれも自由度をパラメータに持つ。 という一見どうでもいい数字が、実は理論の中心にあるのだ。

なお、不偏分散の平方根は「標準偏差の不偏推定量」にはならない。平方根は非線形な操作なので、期待値が保存されないからである。ここも間違えやすい。

(1) 期待値の線形性と、独立な確率変数の分散の加法性から (2) と変形し、期待値をとると (3) で母分散を小さく見積もってしまう。 で割れば期待値がちょうど になる

別解

で手を動かして確かめる(苦手な人向け)。 一般論の前に、いちばん小さい場合をやってみよう。

は独立で、平均 、分散 とする。 だから

2つの偏差は、大きさが同じで符号が逆である。よって

ここで とおく。(独立だから分散が足せる。引き算でも足す)。したがって

となり

確かに である。 のときは「 で割る」— つまり で割ってはいけない。

意味を考えてみよう。 個のデータの散らばりを、その 個から作った平均のまわりで測ると、真の平均のまわりで測った場合のちょうど半分になってしまう。 個の点のあいだの真ん中に中心を置けば、そりゃあ近くに見える。この の目減りを補うのが「 で割る」という操作である。

小さい場合で仕組みを見てから一般化する。この順序で考えると、公式が身体に入る。

ポイント

  • — 平均をとるとばらつきは に縮む。
  • と分離する。
  • 目減りはちょうど 1つぶん。だから で割る。

よくある間違い

  • で割るのは決まりだから」と暗記して済ませる。理由は「 を中心に使うぶん、散らばりが小さく見える」ことで、その目減りがちょうど 1つぶん、という計算に基づいている。
  • (2)の変形で としてしまう。 になるのは のほうである。 で、標本ごとに値が変わる確率変数だ。
  • のままだと思う。平均をとると散らばりは に縮む。この縮みこそが の由来である。