数学I / データの分析

最高点はどこまで高くなれるか

最難関編最大値の評価コーシー・シュワルツ標準偏差

問題

個のデータ ()の平均値を 、標準偏差を ()、最大値を とする。

(1) が成り立つことを示せ。

(2) 5人が受けた小テストで、平均点が 点、標準偏差が 点であった。最高点は 点を超えないことを示し、最高点が 点になるときの5人の得点を求めよ。

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1人が平均から大きく上に離れたら、残りの人はどうしなければならないか。偏差の和は何か。

残りの人たちが「同じだけ負担する」とき、2乗和はどうなるか。

解答・解説

方針

最大値をとるデータの偏差を とする。偏差の総和は だから、残り 個の偏差の和は 。これにコーシー・シュワルツを当てると、 の2乗が 以下に押さえ込まれる。等号は「残り全員が同じ値」のとき。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 平均と標準偏差だけから、最高点に上限がつく。これは意外に感じるかもしれない。

だが考えてみれば当然だ。 が小さければ全員が平均の近くにいるはずで、突出した1人はいられない。その感覚を式にすればよい。

鍵は「偏差の和は 」という事実である。1人が平均から大きく上に離れれば、残り全員でそのぶんを下に埋め合わせなければならない。

そして、埋め合わせを「できるだけ小さい2乗和で」行うには、残り全員が均等に負担するのがいちばん効率がよい。これがコーシー・シュワルツの不等式の内容だ。だから等号は「残り 人が全員同じ値」のときになる。

が小さいほど、埋め合わせる人数が少ないぶん上限は厳しくなる。5人なら 倍までしか離れられない。

定理コーシー・シュワルツの不等式

① (1) 偏差で書く。 最大値をとるデータを としてよい(番号を付け替えるだけ)。偏差を とおくと、定義から

である。第1式より、残り 個の偏差の和は

1人の突出を、残り全員が背負っている形だ。

② コーシー・シュワルツを当てる。 残りの 個に対して

左辺は 、右辺の和は である。 と略記すると

③ 整理する。

両辺を で割って だから

等号はコーシー・シュワルツの等号のとき、すなわち (残り 人の偏差がすべて等しい)ときである。

④ (2) 数値を入れる。 だから

よって最高点は 点を超えない。

等号のときを調べる。最高点が なら 。残り4人の偏差は等しく、その値を とすると偏差の和が だから

つまり残り4人は 点である。得点は

検算すると平均は 、分散は で標準偏差 。条件を満たしている。

x5560804人平均最高点
平均 60・標準偏差 10・5人のとき、最高点が上限の 80 になる配置。1人だけが上に飛び出し、残り4人は全員 55 点に集まる。突出のぶん(+20)を4人が 5 点ずつ負担している

まとめ: 「平均・標準偏差・データ数」の3つだけで、最大値の上限が決まる。使う道具は「偏差の和は 」とコーシー・シュワルツだけ。データ数が少ないほど上限は厳しい。

発展 — 一歩先へ。 この不等式(サミュエルソンの不等式)は、データの整合性チェックに使える。「5人、平均 、標準偏差 、最高点 」という報告があれば、それは必ずどこかが間違っている。 だからだ。

チェビシェフの不等式が「平均から 標準偏差以上離れた値の割合は 以下」と割合を抑えるのに対し、こちらは最大値そのものを直接抑える。 が小さいときは、こちらのほうがはるかに鋭い。 なら「 より遠くには誰も行けない」と言い切れるが、チェビシェフでは「 より遠い人は 以下」としか言えないのだ。

データ数が少ないほど、1人の突出は他の全員に支えられなければならない — そう思うと、この不等式は当たり前のことを言っているようにも見えてくる。

(1) 偏差の和が であることとコーシー・シュワルツの不等式から (2) 。等号のとき残り4人は全員 点(得点は )

別解

判別式で押さえる(得意な人向け)。 コーシー・シュワルツを使わず、2次関数の判別式だけでも同じ結論が出る。

実数 に対して

とおく。2乗の和だから、どんな でも である。展開すると

( を使った。)

これは の2次関数で、 の係数 は正。つねに 以上なのだから、判別式は 以下である。

整理すると 、すなわち だから、求める不等式になる。

等号は となる が存在するとき、つまり のときである。「残り全員が同じ」という等号条件も、この形なら見やすい。

じつはコーシー・シュワルツの不等式の証明そのものが、この判別式である。道具の中身を開けてみると、いつもの2次関数が入っているのだ。定理を暗記していなくても、 から出発すれば自力でたどり着ける。

ポイント

  • 偏差の和が だから、突出のぶんを残り 人が背負う。
  • コーシー・シュワルツで
  • 等号は残り 人が全員同じ値。 なら

よくある間違い

  • 「標準偏差が なら、平均から 以上離れた人はいない」と誤解する。標準偏差は散らばりの平均的な大きさで、個々のデータはもっと離れうる。ただし離れられる限界が である。
  • コーシー・シュワルツを全体( から )に適用してしまう。突出した を除いた残りに当てるのがポイントである。全体に当てても、当たり前の式しか出ない。
  • (2)で等号のデータを求めるとき、残り4人を「平均と同じ 点」としてしまう。それでは偏差の和が になる。 ずつ負担して 点である。