数学I / データの分析
和と差の標準偏差(共分散の展開)
問題
2つの変量 について、標準偏差は 、 であるとする。 と の相関係数を とする。
(1) の標準偏差 のとりうる値の範囲を求めよ。また、両端が実現するデータの例をそれぞれ挙げよ。
(2) と の相関係数を で表せ。
(3) (2)で求めた値のとりうる範囲を求めよ。
ヒントを見る
和の分散は「2乗して足す」だけでは出ない。真ん中に何が入るか。
(2) の偏差と の偏差を掛けて足すと、何が残るか。
解答・解説
方針
と (すなわち )を組み合わせる。(2)では と の共分散が、偏差の積の展開で になる(交差項が消えて が現れない)ことがポイント。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 和の標準偏差は、 と の「連動の仕方」で変わる。同じ方向に動けば増幅し、逆方向に動けば打ち消し合う。
その連動を測るのが共分散 で、 という関係がある。あとは の動ける範囲を知ればよい。それが 、すなわち である。
(2)は共分散の「掛け算のような性質」を使う。 の偏差と の偏差を掛けると となり、交差項が消える。だから共分散は だけになり、 が姿を消してしまう。
だから、この値は負の 。つまり和と差は、いつでも負の相関を持つ。ここが面白いところだ。
① (1) 範囲を出す。 である。したがって
だから 。標準偏差は 以上だから
実現例を作る。 が 、 が という2個のデータなら 、 で、 は だから (このとき )。
を に取り替えると は で (このとき )。
② (2) 共分散を計算する。 偏差を 、 と書く。 の偏差は 、 の偏差は である。よって共分散は
が消えてしまった。一方、標準偏差は
したがって求める相関係数は
③ (3) 範囲を出す。 より だから
分子が (負)なので、分母が小さいほど値は小さくなる。よって
和と差の相関はつねに負である。最も に近いときでも で、 のときは (和と差が完全に逆向きに連動する)。
まとめ: 共分散は「掛け算のように」展開できる。 と の共分散が になるのはその典型で、 である限り、和と差は必ず相関を持つ。
発展 — 一歩先へ。 偏差を「ベクトル」と見ると、この問題の全体が一目で分かる。 の偏差を並べたものを1本の矢印、 の偏差を並べたものをもう1本の矢印と思うのだ。すると標準偏差は矢印の長さ、共分散は内積、相関係数は2本のなす角の余弦にあたる。
の標準偏差は2本を足した矢印の長さ、 は引いた矢印の長さ、つまり平行四辺形の2本の対角線である。三角不等式から「 以上 以下」が読み取れる — これが(1)の答えの正体だ。データの分析が、そのまま幾何の問題に化けるのである。
(1) ( で両端) (2) (3) 以上 以下(つねに負)
別解
を動かして追いかける(苦手な人向け)。 (1)を、 を実際に動かしながら見てみよう。
なら 。 なら 。 なら 。 が から へ連続的に動けば、 も から へ連続的に増える。だから範囲は で、途中に飛びはない。
ここで面白いのは (無相関)のときだ。 で、これは — 三平方の定理そのものである。無相関な2つの量を足すと、標準偏差は「直角三角形の斜辺」のように合成されるのだ。
3つの場合を並べてみる。
- (完全に同じ動き): — ただの足し算
- (無関係): — 三平方の定理
- (完全に逆の動き): — 引き算
は、この3つの極端のあいだを連続的に埋めている。「独立なら分散が足せる」という統計の基本則も、この の場合にほかならない。数式を覚えるより、この3つの絵を覚えておくほうが、はるかに応用が利く。
ポイント
- 、。
- より、和と差の共分散は 。
- 和と差の相関はつねに負( 以上 以下)。
よくある間違い
- といつも思ってしまう。標準偏差は単純には足せない。足せるのは分散で、それも無相関のときだけである。
- (2)で共分散を「標準偏差の積」と混同する。共分散は偏差の積の平均であって、 ではない。定義に戻って偏差を掛けて足す。
- (3)で の範囲を求めるとき、 が自由な実数だと思ってしまう。 という制約があるからこそ、範囲が に収まる。