数学I / データの分析
相関は推移するか
問題
3つの変量 があり、いずれも標準偏差は正であるとする。 と の相関係数が 、 と の相関係数が であるとき、 と の相関係数を とする。
(1) となることはあるか。理由をつけて答えよ。
(2) を示せ。
(3) となる5個のデータの例を1つ挙げよ。
ヒントを見る
「 のうち で説明できる部分」と「説明できない残り」に分けてみよ。残りの大きさはいくらか。
(1) 極端な例を自分で狭めていないか。 にどんな変量をとってもよい。
解答・解説
方針
標準化した偏差で考える。 を「 で説明できる部分」と「残差」に分け、 も同様に分ける。すると と の相関は「説明部分どうしの積」「残差どうしの積」に分解し、前者は で確定、後者はコーシー・シュワルツで に収まる。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 「 と が似ていて、 と も似ているなら、 と も似ているはずだ」— この推論は正しいのか。
答えは「ある程度は正しい」。似ている度合いには下限がつくが、 と から言えるのは意外に弱い。
示す道具は「残差」である。 を「 で説明できる部分」と「残り」に分ける。 も同じように分ける。すると と の相関は、「説明できる部分どうしの相関」「残りどうしの相関」に分解する。
前者は で確定だ。後者はコーシー・シュワルツで の範囲に収まる。だから は より小さくはなれない。
① (1) 上限は に届く。 届く。 として と同じ値の並びをとればよい。このとき と の相関係数は と の相関係数に等しく で、条件を満たす。そして と の相関係数は である。
「 と が完全に一致する」ことは何も禁じられていない。極端な例を自分で勝手に排除しないことが大事だ。
② (2) 標準化して残差に分ける。 標準化した偏差を
とおく。どれも平均 、分散 で、相関係数は積の平均として書ける。
ここで「 で説明できる部分」を引いた残差を作る。
残差は と無相関になる。実際
また残差の大きさは
についても同様に 、 である。
③ 相関を分解する。 、 を代入する。
真ん中の2項は (残差は と無相関)、最後は だから
コーシー・シュワルツより
したがって
④ (3) 下限を実現する例。 次の5個のデータを考える(平均はすべて )。
偏差は が 、 が 、 が である。偏差の2乗和は順に 。
偏差の積の和を計算すると
したがって
条件を満たし、下限がちょうど実現している。
まとめ: 相関は完全には推移しない。 と から言えるのは「 以上」だけである。これは決して強い相関ではない。「 と に相関、 と に相関、ゆえに と にも強い相関」という推論は、統計では通用しないのだ。
発展 — 一歩先へ。 標準化した偏差をベクトルと見ると、相関係数は「2本のベクトルのなす角の余弦」になる。 なら は約 である。
と が角 、 と が角 だけ離れているなら、 と の角は最小で (同じ側に重なる)、最大で (反対側に開く)。角が大きいほど余弦は小さいから
本解のコーシー・シュワルツは、この「角度の三角不等式」を式で書いたものにほかならない。相関を角度だと思えば、推移の限界が一目で見える。「相関が高い」とは「向きが近い」ということなのだ。
(1) ある( を と同じ値の並びにとればよい) (2) で説明できる部分と残差に分け、残差どうしにコーシー・シュワルツを当てる (3) 例: 、、
別解
判別式で一撃(得意な人向け)。 残差を持ち出さなくても、2乗の非負性だけで下限が出る。
標準化した に対し、実数 を使って次の量を考える。
2乗の平均だから、どんな でも である。展開すると、 と3つの相関係数を使って
の2次関数で、 の係数は正。つねに 以上なのだから判別式は 以下である。
数行で終わってしまった。 という組合せを思いつくのが山場だが、「 と の関係を知りたいなら、両方を含む2乗を作って で調整する」と考えれば自然である。
等号は となる が存在するとき、つまり がすべて になるときだ。判別式が のときの は で、そのとき が成り立つ。(3)の例で確かめると、偏差を正規化した の和がちょうど の 倍になっている。
コーシー・シュワルツも、突き詰めればこの判別式である。定理の名前を思い出せなくても、 から出発すれば道は開ける。
ポイント
- 標準化すると、相関係数は積の平均になる。
- で説明できる部分と残差に分けると 。
- 残差の積はコーシー・シュワルツで に収まる。
よくある間違い
- 「相関は推移する」と思い込み、 も 前後になると考える。実際には まで下がりうる。相関の推移には、思ったよりずっと弱い制約しかない。
- (2)で残差の積をコーシー・シュワルツで抑えるとき、上からの評価だけを使う。いま欲しいのは下限だから、 以上という負の側の評価こそが本質である。
- (1)で「 を と同じにするのは反則だ」と勝手に決める。問題は3つの変量の相関を問うているだけで、 の値の並びが と一致してはいけない理由はどこにもない。