数学I / データの分析
相関係数を最大にする組み方(並べ替え不等式)
問題
変量 の値の集まり と、変量 の値の集まり を1対1に対応させて、5個のデータ を作る。対応のつけ方は 通りある。
(1) 対応をどう変えても は変わらない。このことを用いて、相関係数 を最大にすることが を最大にすることと同じである理由を説明せよ。
(2) を最大にする対応は、 と を同じ順位どうしで組んだものであることを示せ。
(3) の最大値と最小値を求めよ。
ヒントを見る
対応を変えたとき、平均・標準偏差・共分散のうち、動くのはどれか。
(2) なのに となるペアがあったら、 を入れ替えてみよ。和はどう変わるか。
解答・解説
方針
変えられるのは「組み方」だけ。何が動いて何が動かないかを見極める。平均も標準偏差も値の集まりだけで決まるので不変で、動くのは だけ。あとは「大小が食い違うペアを入れ替えると和が増える」という交換論法で、最大が同順であることを示す。
解答
⓪ 発想 — どう考え始めるか。 値の集まりは決まっていて、変えられるのは「組み方」だけだ。まず、何が変わり何が変わらないかを見極める。
平均も標準偏差も、 の値全体・ の値全体だけで決まる。組み方には無関係だ。動くのは共分散、すなわち だけである。
だから問題は「積の和を最大にする組み方は?」に化ける。
あとは交換だ。大小が食い違うペア(小さい に大きい )があれば、そこを入れ替えると和が増える。増えるなら、それは最大ではない。したがって最大の対応には食い違いが1つもない — つまり同じ順位どうしで組む、ということになる。
① (1) 動くのは1か所だけ。 は、 の値の集まりと の値の集まりだけで決まるので、対応を変えても不変である。したがって
の右辺で、対応によって動くのは だけ。しかも はその1次式で、係数 は正である。よって を最大にすることと を最大にすることは同じである。
② (2) 交換すると和が増える。 ある対応で、 なのに となるペア(逆順のペア)があったとする。この2人の だけを入れ替えると、和の変化は
、 だから、この値は正である。つまり和は必ず増える。
対応は有限個( 通り)なので、 を最大にする対応は存在する。その対応に逆順のペアがあれば、いま見たように入れ替えて和を増やせてしまい、最大に矛盾する。よって最大の対応には逆順のペアが1つもない。すなわち の大小と の大小が完全に一致する — 同じ順位どうしの組である。
③ (3) 値を計算する。 同順の対応は である。
、。偏差は が 、 が だから
よって
同じ議論で、最小は逆順 のときで、共分散は 、 である。
まとめ: 「何が動いて何が動かないか」を見極めれば、 通りを調べずに済む。動く量が1つだけなら、その最大化に集中すればよい。交換論法は、順序に関する最大最小の万能の武器である。
発展 — 一歩先へ。 (2)で示した「同順で積の和が最大、逆順で最小」は並べ替え不等式と呼ばれ、数学のあちこちに顔を出す。相加相乗平均の証明や、チェビシェフの和の不等式もこの仲間だ。
直感的には「大きいものどうし、小さいものどうしを組めば総和が大きい」という当たり前の話に見える。だが証明は、交換1回ぶんの差 の符号を見るだけで済む。当たり前に見えることを、1行の式で確実に押さえる — これが数学の作法である。仕事の割り当てや投資の組合せなど、応用の場面も広い。
(1) で、。分母と は不変だから、 は の増加関数 (2) 逆順のペアを入れ替えると和が増える (3) 最大 、最小
別解
残差から相関係数を求める(得意な人向け)。 (3)の値を、共分散を経由せずに出すこともできる。
同順の対応 に、最小二乗の直線(回帰直線)を当てはめてみる。傾きは 、切片は だから、直線は
この直線からの縦のずれ(残差)は、 から順に
で、2乗和は である。
ここで「残差の2乗和の最小値は に等しい」という関係を使う。 だから
(同順なので 。)本解と一致する。
この計算は の意味も教えてくれる。 とは「 の散らばりの が で説明でき、残り が直線からのずれ」という意味だ。 が に届かないのは、点 が直線から大きく上に外れているからである。相関係数を「直線でどれだけ説明できるか」の物差しとして読む — この見方は統計の実務でそのまま使われる。
ポイント
- 対応を変えても は不変。動くのは だけ。
- 逆順ペアの交換で和が だけ増える。
- 最大は同順で 、最小は逆順で 。
よくある間違い
- 対応を変えると平均や標準偏差も変わると思い込む。変わるのは「どの とどの を組むか」だけで、値の集まり自体は変わらない。したがって は不変である。
- (2)を「 通り全部調べればよい」で済ませる。答えは出るが、一般の では通用しない。交換の一手で「最大なら逆順ペアはない」と言い切るのが本筋である。
- (3)で共分散を とし、 を引き忘れる。 の最大化と の最大化は同値だが、 の値そのものは共分散から計算する。