数学I / データの分析

仮説検定の考え方(コイン投げ)

★ 基礎仮説検定

問題

あるコインを 回投げたところ、表が 回出た。「このコインは表が出やすい」と判断してよいかを、次の実験結果を用いて考える。

公正なコイン(表と裏が同じ確率で出るコイン)を 回投げる実験を セット行ったところ、表が 回以上出たのは セットであった。

基準となる確率を として、「このコインは表が出やすい」と判断してよいか答えよ。

ヒントを見る

『表が出やすい』と主張したいのに、まず立てるのは反対の仮説『公正である』。公正だと仮定したら今回の結果はどれくらい珍しい? 実験の割合を出して、基準 と大小を比べる — 珍しすぎたら仮定のほうを疑う。

解答・解説

方針

『このコインは表が出やすい』と主張したい。そのとき仮説検定では、意外なことに、主張と反対の仮説『このコインは公正である』をまず立てる。

理由はこうだ。公正だと仮定して話を進め、『その仮定のもとでは今回の結果はめったに起こらない』と示せれば、仮定のほうが疑わしい、と反対の仮説を倒せる。背理法によく似た論法だ。

『めったに起こらない』の基準は、ここでは ()。実験結果の相対度数と、この基準の大小比較が判定のすべてだ。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 「表が 回も出た。このコインは怪しい」— これを数学の言葉で裏づけるのが仮説検定だ。

論法は少し変わっている。主張したいことの反対を、いったん仮定する。

  • 立てる仮説: 「このコインは公正だ(表と裏は同じ確率)」

そして問う。「もし公正なら、 回中 回も表が出ることは、どれくらい珍しいのか?

実験結果を見ると、公正なコインで 回以上出たのは セット中たった セット。割合は 、つまり

()より小さい。「公正なら、めったに起きないはずのことが起きた」 — ならば最初の仮定を疑うべきだ。仮説を棄却して、「表が出やすい」と判断する。背理法に似た構図である。

重要仮説検定:主張の反対(帰無仮説)を立て、その仮説のもとでの相対度数が基準( 等)より小さければ棄却

まず仮説を立てる。 判断したい主張は『このコインは表が出やすい』だ。そこで、これに反する仮説

を立て、この仮説が正しいとしたら今回の結果(表が 回以上)がどれくらい起こりにくいかを調べる。自分の主張を直接証明するのではなく、相手(反対の仮説)を追いつめるのが、この論法の構えだ。

実験結果から相対度数を求める。 公正なコインを 回投げる実験 セットのうち、表が 回以上出たのは セットだけだった。その相対度数は

つまり、公正なコインでも表が 回以上出ることはある。ただし 回に 回くらいしか起こらない、ということだ。

基準と比べて判断する。

今回のような結果は、基準の を下回る『めったに起こらない』出来事だ。それが現実に起きた。ならば『公正である』という仮定のほうを疑うのが筋であり、この仮説を棄却する。

結論。 このコインは表が出やすいと判断してよい。

(もし相対度数が 以上だったら?そのときは『公正なコインでも普通に起こりうる結果』なので仮説は棄却できない。ただしそれは『公正だと証明された』ことにはならず、『表が出やすいとは言い切れない』という保留の結論になる。この非対称が仮説検定の肝だ。)

発展 — 一歩先へ。 ここで立てた「公正なコインだ」という仮説を帰無仮説、否定したい相手を倒したときに残る「表が出やすい」を対立仮説という。基準の 有意水準と呼ばれる。

数Bの「統計的な推測」では、この判定を実験ではなく正規分布で行う。 回中の表の回数は二項分布に従い、回数が多ければ正規分布で近似できるからだ。平均 、標準偏差 として

片側 の基準値 を超えている → 棄却。実験も、二項分布の直接計算も、正規近似も、同じ結論に着く。道具が違うだけで、考え方は つだ。

判定を誤る可能性も 種類ある。本当は公正なのに「怪しい」と言ってしまう誤り(その確率がまさに有意水準 )と、本当は偏っているのに見逃す誤り。基準を厳しくすれば前者は減るが、後者は増える — 両方をゼロにはできない

新薬が効くかどうかの判定も、工場の不良品検査も、この論理でできている。「絶対に確か」ではなく「これだけ珍しいなら偶然とは考えにくい」で前に進む — 不確実な世界で意思決定するための、人類の発明である。

相対度数 なので「公正なコイン」という仮説は棄却され、表が出やすいと判断してよい

別解

実験の セットは、本当は計算で求められる確率の近似である。理論値を出して、実験結果と突き合わせてみよう。

公正なコインを 回投げて表が 回出る確率は、 回のうちどの 回が表かを選ぶ場合の数を使って

と書ける( 通りの表裏の並びは、どれも同じ確率で起こるから)。求めたいのは「 回以上」だから、 から まで足す。

理論値は約 実験で得た は、この 回の試行で推定した値だったわけだ( セットしかないので、ぶれるのは当然である)。

どちらも を下回る。 だから結論は変わらない — 仮説は棄却され、「表が出やすい」と判断してよい。

ここで背筋が寒くなる事実に気づく。理論値 は、基準 をぎりぎり下回っているだけだ。

もし表が 回だったら? 同じ計算をすると

— 基準の 倍で、棄却できない。表が 回違うだけで、結論がひっくり返るのである。

この事実から、 つの大事な教訓が出る。

  • という基準に、数学的な必然性はない。 「まあこのくらい珍しければ」という約束事にすぎない。 を基準にすれば、今回は棄却できなかった()
  • 「棄却できない」は「仮説が正しい」ではない。 証拠が足りないだけで、無罪放免ではない。仮説検定は「白」を証明できず、「黒だと言えるほど珍しいか」だけを判定する
  • 回数を増やせば、判定は鋭くなる。 回投げて 回表なら(同じ割合でも)確率はずっと小さくなり、はるかに強い証拠になる。データの量が、結論の強さを決める

仮説検定は「疑わしきは罰せず」の論理だ。刑事裁判で「無罪と仮定して、有罪の証拠がどれほどありえないか」を問うのと、まったく同じ構えをしている。

ポイント

  • 主張と反対の仮説(帰無仮説)を立て、その仮説のもとでの起こりにくさを調べる
  • 起こった結果の相対度数が基準(例: )より小さければ仮説を棄却する
  • 「めったに起こらないはずのことが起きた → 仮説が疑わしい」という論法の構造をつかむ

よくある間違い

  • 「表が出やすい」という主張のほうを仮説として立ててしまう
  • 相対度数が基準より小さいのに「仮説は正しい」と逆の結論を出す
  • 「棄却できなかった」を「仮説が正しいと証明された」と読みかえてしまう(証拠不足と無実は別)