数学I / データの分析

変量の変換と平均・分散

★ 基礎変量の変換

問題

あるテストの得点 の平均値は 点、標準偏差は 点であった。次の各場合について、新しい変量 の平均値と標準偏差を求めよ。

(1) 全員に 点を加える:

(2) 全員の得点を 倍する:

(3) とする

ヒントを見る

全員に同じ数を足す・全員を何倍する、で平均と散らばりはどう動く? 全員一律に足しても『差のつき方』は変わらない(=散らばりは不変)。では何倍かにすると、差はどうなる?

解答・解説

方針

全員の点数に を足したら、平均は?散らばりは?いちいち計算し直す必要はない。

変換 に対して、平均値は同じ変換を受けて 。一方、標準偏差は になる。

が標準偏差に現れないのがポイントだ。全員に同じ数を足すのはデータ全体の平行移動で、データどうしの間隔(散らばり)は変わらないからだ。分散は標準偏差の2乗なので だ。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 全員の得点を同じように動かすと、平均と散らばりはどうなるか。絵で考えるのが速い。

データを数直線上の点の集まりだと思おう。

(1) 全員に 点足す → 点の集まりがまるごと右に 平行移動する。集団の位置は動くが、点どうしの間隔は変わらない。だから平均は 、散らばり(標準偏差)はそのまま

(2) 全員を 倍する → 点の間隔がすべて 倍に引き伸ばされる平均も 倍、散らばりも

(3) → 符号がマイナスなので左右反転し、 平行移動。反転しても散らばりの大きさは変わらない(標準偏差は負にならない)。

絶対値がカギである。

公式変量の変換 :

変換 に対して

が成り立つ。これを各場合にあてはめる。

(1) 全員に 点加える。 なので

平均は 点動くが、標準偏差は変わらない。全員が一斉に 点ずつ上がっても、点数の差のつき方は元のままだからだ。

(2) 全員の点数を 倍する。 なので

今度は散らばりも 倍される。差が 点だった2人は、 倍後には 点差になる。平行移動とちがって、拡大はデータの間隔を実際に引き伸ばす。

(3) なので

まとめ:『』と書きたくなったら手を止めること。標準偏差は散らばりの大きさで、必ず 以上だ。データの並び順が反転しても、散らばりの幅そのものは変わらない。だから には絶対値がつく。

発展 — 一歩先へ。 平均と標準偏差の反応の違いは、「位置」と「形」という役割の違いから来ている。

  • 平均は集団の位置を表す → 平行移動()で動き、拡大()でも動く
  • 標準偏差は集団の形(広がり)を表す → 平行移動では動かない、拡大でのみ動く

平行移動で変わらない量を、数学では不変量という。標準偏差は「平行移動不変」な量なのだ。

不変量に着目する見方は、数学のあちこちに顔を出す。図形の合同変換で長さと角が不変であること、複素数の絶対値が回転で不変であること — 「何が変わり、何が変わらないか」を見抜くことが、構造を理解するということである。統計の変量変換は、その入門編にあたる。

ちなみに相関係数(次に学ぶ)は、どちらもどう変換しても( なら)変わらない。標準偏差よりさらに強い不変性を持っている — だから単位の違う量どうしの関係を測る物差しとして使えるのだ。

(1) 平均 、標準偏差 (2) 平均 、標準偏差 (3) 平均 、標準偏差

別解

公式を信じきれないときは、条件に合う小さなデータを自分で作って実験するのがいちばんだ。 人ぶんで足りる。

平均 、標準偏差 になるデータを用意する。 たとえば

平均は ✓。偏差は で、 乗の平均は 、標準偏差は ✓。条件どおりだ。

(1) 全員に を足す: 。平均は 。偏差は さっきと同じ → 標準偏差は のまま。

「偏差が変わらない」がすべてだ。全員が同じだけ動けば、平均も同じだけ動く。だから「各データ 平均」の値は動かない。散らばりが変わらないのは当然なのである。

(2) 全員を : 。平均は 。偏差は → 標準偏差は 偏差も になっている。

(3) : 。平均は 。偏差は 乗すればどれも で、標準偏差は 符号は反転しても 乗で消える — これが の正体だ。

人ぶんの実験で、 つの答えがすべて確認できた。公式に不安があるときは、小さな例で試す — 数学のあらゆる場面で使える護身術である。

この変換公式のいちばんの使い道も見ておこう。 ととると

この の平均は 、標準偏差は どんなデータも「平均 ・標準偏差 」に作り変えられる — これを標準化という。

標準化すれば、 点満点の数学と 点満点の英語のような単位も規模も違うデータを、同じ土俵で比べられる。偏差値 は、この を見やすく化粧した値だ(、つまり平均より標準偏差 つぶん上なら偏差値 )。変量の変換は、比較のための言語をそろえる技術なのである。

ポイント

  • のとき
  • 定数 を加えても散らばり(分散・標準偏差)は変わらない
  • でも標準偏差は正 — を掛ける

よくある間違い

  • (1)で標準偏差も に増えると考えてしまう
  • (3)で標準偏差を とする(標準偏差は負にならない)
  • 分散と標準偏差で倍率を混同する(標準偏差は 倍、分散は 倍)