数学I / データの分析

仮説検定(基準の違いによる判断の変化)

★★★ 応用仮説検定

問題

あるさいころを 回投げたところ、 の目が 回出た( の目が公正に出るなら期待されるのは 回程度である)。「このさいころは の目が出やすい」と判断してよいかを調べるため、公正なさいころを 回投げる実験をコンピュータで 回シミュレーションしたところ、 の目が 回以上出たのは 回であった。

(1) 基準となる確率を とするとき、「このさいころは の目が出やすい」と判断してよいか。

(2) 基準となる確率を とするとき、判断はどうなるか。

(3) 基準を小さくすることには、どのような意味があるか。簡潔に述べよ。

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手順は同じ(仮説→相対度数→基準と比較)。新しいのは(3) — 同じ結果を基準 で裁くと? 基準を厳しくすると仮説は棄却しやすく? しにくく? それが何のリスクを減らし、代わりに何を増やすか、まで考えよう。

解答・解説

方針

仮説検定の手順自体は基礎・標準と同じだ。仮説『さいころは公正である』を立て、 の目が 回以上出ることの相対度数をシミュレーションから見積もり、基準と比べる。

この問題の新しさは(3)にある。同じ結果を、異なる基準()で裁くとどうなるか、そして基準の大小は何を意味するのか。数値の比較は一瞬で終わる分、『基準(有意水準)とは何の取り決めなのか』を自分の言葉で説明できるかが問われている。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 検定の手順は既習どおり。仮説を立て、相対度数を見積もり、基準と比べる。

新しいのは (3) だ。同じデータを、基準 つで裁くとどうなるか。

一般には、同じ結果でも基準しだいで結論が分かれることがある。この揺れに触れるのが主題だ。

仮説検定の結論は絶対の真実ではない。事前に決めた基準に相対的な判断だ。そこまで理解が届けばよい。

重要仮説検定:相対度数と基準(有意水準)の大小で判断。基準を小さくするほど棄却しにくい(慎重)

仮説『このさいころは公正である( の目の出る確率は )』を立てる。この仮説のもとで、 の目が 回以上出ることの起こりにくさをシミュレーションで見積もると、相対度数は

(1) 基準 と比べると

公正なさいころでは 回中 回しか起こらない『めったにないこと』が実際に起きた。仮説のほうが疑わしいと考えて棄却する。よって、このさいころは の目が出やすいと判断してよい。

(2) より厳しい基準 と比べても

なので、やはり仮説は棄却される。この基準でも の目が出やすいと判断してよい。今回の は、厳しい審査さえ通るほど際立って珍しい結果だった、ということだ。

(3) 基準を小さくする()とは、『めったに起こらない』と認定するラインを厳しくすることだ。それだけ強い証拠がなければ仮説を棄却しなくなるので、偶然の偏りを『出やすい』と誤って判断してしまう危険を減らす、より慎重な判断になる。

ただし、慎重さはタダではない。基準を厳しくした分、実際には出やすいさいころを『判断できない』として見逃す可能性は高くなる。つまり基準の選び方は『濡れ衣のリスク』と『見逃しのリスク』の綱引きで、どちらの誤りをどれだけ避けたいかに応じて決める、人間側の取り決めだ。

振り返り。 という数字に数学的な必然性はない。慣習として広く使われているだけだ。『基準を変えれば結論が変わりうる』という事実は、統計的判断が絶対の真理ではなく、基準込みの条件つき判断であることを教えてくれる。ニュースで『統計的に有意』という言葉を見たら、『どの基準で?』と問い返せるようになれば、この単元の学びは実生活に届いている。

発展 — 一歩先へ。 基準(有意水準)には、はっきりした意味づけがある。公正なさいころをこの基準で何度も検定したとき、誤って「偏っている」と判定してしまう割合を、基準値以下に抑える、という約束だ。 は「偽の警報は まで許す」、 は「 まで」という取り決めになる。

見落としてはいけないのは、 でも ではないことだ。この問題のシミュレーションそのものが、公正なさいころ 回のうち 回は「 回以上」を出していた。多くの公正なさいころを次々に検定すれば、その一部は偶然だけで「偏っている」と誤判定されてしまう。

だから 回「有意」が出ただけでは証明にはならない。本当に確からしいかは、独立な追試(再現)で確かめる。統計的な結論を「めったにない、ゆえに真実」と即断せず、再現性まで問うのが科学の作法だ。

(1) より出やすいと判断してよい (2) よりこの基準でも出やすいと判断してよい (3) より慎重な(誤って仮説を棄却しにくい)判断になる

別解

別解 — シミュレーションに頼らず理論確率で見積もる(得意な人向けの視点)。 シミュレーションの を使わずに、確率そのものを計算してみる。

仮説が正しければ、 の目の出る確率は 回投げて の目がちょうど 回出る確率は、反復試行で

求めたいのは「 回以上」だから、 から まで足す。この和を計算すると約 になる。

つまり、公正なさいころでも の目が 回以上出ることは、理論上おおよそ しか起こらない。これは よりも よりも小さい。だから (1)(2) のどちらの基準でも仮説は棄却され、 の目が出やすいと判断してよい。

シミュレーションの と理論値 が近いことも確かめられる。乱数実験は、この理論確率を近似していたわけだ。本解と同じ結論だ。

ポイント

  • 同じデータでも基準(有意水準)によって結論が変わりうる — 今回はどちらの基準でも棄却
  • 基準を小さくする = 仮説を棄却しにくくする = 誤棄却に慎重になる
  • 仮説検定の結論は「確率的な判断」であり、絶対の証明ではない

よくある間違い

  • の大小比較を誤り、 と読んで結論を取り違える。
  • (3) で「基準が小さいほど正確」とだけ述べ、実際に出やすいさいころを見逃す危険が増える裏面を落とす。
  • 相対度数 が基準より小さいのに「棄却しない」と判断を逆にする(基準より小さい=めったに起きない=棄却)。