数学I / データの分析

平均と中央値は標準偏差以上には離れない

最難関編平均と中央値三角不等式標準偏差

問題

個のデータ の平均値を 、中央値を 、標準偏差を とする。以下、「 を最小にする は中央値 である」ことは用いてよい。

(1) 任意の実数 に対して

が成り立つことを示せ。

(2) を示せ。

(3) とする。比 にいくらでも近づけられることを、データの例を作って示せ。

ヒントを見る

(1) を新しい変量 と見よ。 について何が言えるか。

(2) を「偏差の平均」の形に書けないか。そこから絶対値を中に入れる。

解答・解説

方針

平均は外れ値に引きずられ、中央値は動じない。だが2つが離れられる距離には限界があり、それが標準偏差である。三角不等式・中央値の最小性・(1)の3段を積み重ねるとちょうど にたどり着く。(1)自体は「分散は 以上」の言い換えにすぎない。

解答

⓪ 発想 — どう考え始めるか。 平均は外れ値に引きずられる。中央値は動じない。だから2つは離れうる。ではどこまで離れられるのか。

答えは「標準偏差 まで」である。 は散らばりの尺度だから、散らばりが小さいデータでは平均と中央値がぴったり寄り添う、というわけだ。

使う道具は3つ。三角不等式(和の絶対値は絶対値の和以下)、中央値の最小性(絶対偏差の和は中央値で最小)、そして「絶対値の平均 2乗平均の平方根」。この3段を積み重ねると、ちょうど にたどり着く。

(1)の不等式は、実は「分散は 以上」の言い換えにすぎない。 という新しい変量を考えれば、 がそのまま(1)になる。

公式どんな変量 でも分散は 以上: 、すなわち
定理三角不等式

① (1) 新しい変量を作る。 とおく。 の分散は 以上だから

ここで である。移項すると

両辺とも 以上だから、平方根をとって(1)を得る。

② (2) 3段で挟む。 まず、平均と中央値の差を「偏差の平均」の形に書く。

第1段は三角不等式である。

第2段は中央値の最小性。絶対偏差の和を最小にするのは中央値だから、 と比べて

第3段は(1)で とする。

3つをつなげば

③ (3) 限界に迫る例を作る。 を自然数とし、 個、 個並べたデータ( 個)を考える。

中央値は、小さい順に並べたときの真ん中の値である。 が過半数( 個)を占めるから

平均は

分散は2値データの計算から 、すなわち である。よって

を大きくすれば、この値はいくらでも に近づく( なら約 )。したがって(2)の は、これ以上小さい値には置き換えられない。

x01中央値 ± s中央値平均1 が2個
例: 0 が3個、1 が2個。中央値は 0、平均は 0.4、標準偏差は約 0.49。平均は必ず『中央値 ± 標準偏差』の帯(青)の中にある。この例では帯の端すれすれ

まとめ: 「平均は、中央値から標準偏差ぶんまでしか離れられない」。三角不等式・中央値の最小性・2乗平均との比較を積み上げるだけだが、3つとも基本的な道具なのが面白い。

発展 — 一歩先へ。 実は等号 が成り立つのは、データがすべて同じ値のとき()に限る。それでも(3)のように比を にいくらでも近づけられる。「等号は成立しないが、定数 は改良できない」という状況だ。

実務ではこの不等式が警告として働く。所得分布のように、平均が中央値よりずっと大きいデータは、この限界に近いところにいる。もし「平均と中央値の差が標準偏差の 倍」という報告があれば、それは計算間違いである。データを見る前に、数字どうしの整合性が確かめられるのだ。

(1) の分散が 以上、から従う (2) 三角不等式 中央値の最小性 (1) の3段 (3) 個・ 個並べると比は で、 に近づく

別解

(1)をコーシー・シュワルツで示し、等号条件まで追う(得意な人向け)。 (1)はコーシー・シュワルツの不等式の特別な場合でもある。

両辺を で割って平方根をとれば(1)である。

この見方の利点は、等号条件がはっきりすることだ。コーシー・シュワルツの等号は「2つの並びが比例するとき」、いまの場合は がすべて等しいときである。

そこで(2)の等号を追ってみよう。 として、第3段((1)で )で等号が成り立つには、 がすべて等しい必要がある。その共通の値は だから、データは の2種類しかない。

個、 個とすると、偏差の和が だから 、すなわち 。つまり2つの値がちょうど半々である。

このとき中央値は、小さい順に並べた真ん中2つの平均で 。したがって となり、 と等しくはならない。

結局、等号が成り立つのは (全部同じ値)のときだけである。「近づけるが到達できない」不等式の典型だ。

ポイント

  • (1)は の分散が 以上、というだけ。
  • 三角不等式 中央値の最小性 (1) の3段で に到達。
  • 個・ 個で比は

よくある間違い

  • 「平均は外れ値に引きずられるから、中央値からいくらでも離れられる」と思い込む。確かに平均は動くが、そのとき標準偏差も一緒に大きくなる。だから比 を超えない。
  • (2)の第2段で、中央値の最小性を「平均の最小性」と取り違える。2乗の和を最小にするのが平均、絶対値の和を最小にするのが中央値である。役割が違う。
  • (3)で「 に近づく例」ではなく「 ちょうどになる例」を探し続ける。等号は のときしか起こらない。近づけられるが到達できない、という状況を正しく捉える。